今回の取材では、昨今、大きな脚光を浴びている脳科学のスタートアップを運営されている菊地さんに、チームづくりについてお話を伺いました。菊地さんは、eスポーツの選手だったご経歴もあり、様々なチームのあり方についてもお話しいただきました。
組織が【目指す】をチューニングする難しさ
「たとえば、目指すところが人によって違ったりして、それが原因で良い終わり方じゃないチームもあったりします。自分は、その原体験を生かして、共通の目標を持つ仲間を集めることに注力しています」 スタートアップのように、何もないところから事業を起こしていく場面で、何を目指すのか? というチューニングの重要性を起業後もずっと心がけていらしたと話されます。 「最終的に目指している点は共通していたとしても、その過程でそれぞれが何を得たいのかという点は、違ってきます」 目標地点は同じでも、その目標を達成する方法には、個人の経験や人生の目標などが絶妙に変数として現れます。現時点ではメンバー数が少ないため、顕在化していないだけで、実は、個人の評価指標や代表とのその目的地点への進み方で距離が離れてしまう人も出てしまうのではないか。そのような目指す場所と行き方のチューニングが大事になるとの見立てをされていました。 一方、新規で参画したメンバーとの対話も「目指す」を軸にされているのが現在だそうです。 「組織がどこを目指しているのか。経営陣が何に焦点を当てているかを知りたい、とメンバーから言われることも多いです。だからこそ、目標を明確にし、透明性を高める必要があると感じています」 自分たちが目指し、心で温めていることを、チームと分かち合う。さらには、全員で腹落ちしあうところまでを、1つのセットとして進めていくことの重要性を、改めて確認できるエピソードではないでしょうか。
【見出す】【見立てる】をセットで伝え合うこと
今、まさに飛躍に向けて組織を作っている真っ最中の菊地さんに、チームメンバーとの日々のコミュニケーションについても伺いました。 「人数が少ない今は、1対1での対話を定期的にタイミングを設けて実施しています。メンバーも自分もですが、どういう日々の業務に楽しさや意義を見出しているか。どういうところで、自身が活躍できていると感じているのかなどが見えてきます」 菊地さんは、そのような対話を通じて、今だけでなく、今後の見立てをメンバーに伝えることも欠かしません。 「会社が今後目指す中で、こういう仕事が出てくる。だからこそ、あなたが必要ですよとお伝えします」 前述した、自分たちの目指す場所や心で温めていることに、さらに1つの視点が加わりました。今と未来をセットで伝えていくことで、相手のゴールも現在地も明確にできる。腹落ちして、業務と向き合うための対話の形として、ぜひ見習いたい点です。
【続ける】スタンスを作るのも経営者の仕事
菊地さんに、起業当時の組織の形成期を振り返ってのお話も伺いました。 「自分は学生起業に近い形でスタートしました。当時、自社のCOOのポジションは社会人経験がある方を採用したので、自分はその方にかなり頼ってしまって。しかし、COOが弊社に参画したのは、CEOである私についていきたいからだったんです」 当時のCOOと菊地さんの関係をみて、COOから、菊地さんではなく私が引っ張り続けることで、みんなの成長も止めてしまうし、業務自体もやりづらくなる。色々組織としてよくないと、菊地さんに話されたそうです。お話し合いの結果、COOの方は、会社の成長を願って、同社を卒業されたのだそうです。 頼りにしていたコアメンバーが1名去る中、収益に向けて会社の呼吸を止めずに動こう。残った経営陣は、1つの決断をします。
「苦しい場面で、手段を選ぶことなく自分たちが目指したい世界観を作るために、今やれることをやろう。そのために、何をして会社を続けるかを考えました」 目指す世界の灯火を消さないために、受託で仕事を受ける決断をした同社。1年後に融資を受けて研究開発を行うまで、菊地さんとメンバーは、受託開発で忍び続けます。 しかし、受託開発の受注があったとしても、菊地さんらは自分たちの軸をブラさないと決めて臨み続けます。 「当時の最大の自社の課題は、収益を上げることでした。この課題に対処するために、期間を設定して行動(受託開発)することを決めました。その先は自分たちの目指すことに戻ろうというスタンスを持ち続けたのです」 資金難に直面するスタートアップが、本来のミッションとなる事業とは異なる受託などで収益を担保するという動きは、昨今一般的になりました。この時に潜むのは、受託開発が軌道にのり、収益や案件が膨らみすぎて本来の事業が後手に回ってしまうという罠です。経営陣の強い信念が試される場面だと言われます。 そこで、1年と決めた菊地さんたちが、事業の軸をブラさずに続けられる秘訣を併せて伺いました。 「私は、そもそもeスポーツをしてきた経験や課題感、その想いから起業しました。なのですが、会社を作った時に、ゲームの世界などから少し離れたんです。プレー自体もしなくなってしまって。でも、自分の起業の原点はeスポーツにあります。だから、自分が創業した時の想いを忘れないためにも、ゲームをする時間は設けています。改めて、ゲームを一緒にしていた人と対話したり、当時と近い経験も忘れないようにしている。その感情を再確認し、自分の目指したい先を軌道修正しながら進めています」
自分の中で腑に落ちなければ、人を説得はできない。どんなに困難があっても、また苦しい時には甘い蜜のように感じる収益が生まれても、目指す事業を続けるために自身の原体験と向き合い続ける。原体験を忘れず、思い出すこと。 菊地さんのお話からは、創業者として、自身の創業時の感情をないがしろにしてはいけないのだ、という強さと信念を改めて問う機会になりました。
組織にいるからこそ、自己への回帰や経験の再確認を行う必要があるでしょう。 皆さんも、似たような体験はありませんか? 私も再び考えてみる必要があると感じました。
【取材協力】
株式会社SandBox CEO
菊地 秋人様
https://www.sandbox-inc.com/
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ラボラティック株式会社 広報担当
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