今回は、岐阜で障害者に対する就業者支援を行っている、後藤さんにお話を伺いました。後藤さんがされている就業支援は、これまでの枠組みでは支援が届いていない方々へも裾野を広げた取り組み。まさに、既存の福祉の枠組みや概念を広げ、力強く働く人の支援を実現するための組織づくりを推進されてきました。
まだ無いものを【立ち上げる】からこそ見えたこと。
様々な事情が重なって、自ら福祉に関する事業所を立ち上げていくことになった後藤さんですが、実は当時は、福祉についても現在進行形で学んでいる最中だったと話されます。 「もちろん、最低限の事務的なことなどは理解していました。 いざ、自らが会社を立ち上げる側になった時に、福祉の経験者に来て欲しいという想いがありました。福祉たるもの、という価値観なども含めて、 そんな仲間に当初は集まってもらっていました」
後藤さんが対象とする就労移行支援を進めていく上で、対象者の方々のための活動(予防的支援)は、既存の福祉の価値観や枠組みではなかなか支援が行き届かない領域だったのです。自分たちの活動によって、就労などに困っている人をそもそも生み出さない仕組みはできないか? そんな観点で福祉と向き合う後藤さんは、段々と、より大きな働きかけや助成金などを活用して、支援の輪を従来の枠組みや常識を超えて広げていくことになります。
「福祉の基本的理念は尊重しています。ただ、私たちが実現したい社会を考えた時に、既に従来の福祉制度の枠組みでは実施できないところもありました。現場の支援は福祉職の経験が活かされますが、例えば、助成金などを活用し制度外の就職困難者も支援するといった場面でファンドレイジングのできるメンバーが必要となりました。すると、実際に事業所の組織の中でも、進んでいく方向性、つまりベクトルが違いはじめてしまったんです」
多様で柔軟な支援を実現しようする中で、支援の枠組みや、そもそもの福祉のあり方について、メンバー間で齟齬を起こしてしまった状態ともいえそうです。 後藤さんは、新しい取り組みをはじめるときこそ、組織における福祉の基礎を築いてくれたメンバーの仕事への承認と感謝は本当に大事ですね、とお話しされている姿が印象的でした。
そして後藤さんは、組織の成長を考えた時に、壁にぶつかっていくことになります。 「組織の役割が『福祉事業所』から『多様な就労支援を展開する組織』として成長していく過程で、メンバーの数が2倍・3倍に増えました。自分としては『みんなでつくりあげていく組織』にしたいと思っていた一方で、運営については一人でもがいているような孤独感があった。私はやっぱり組織の リーダーとしての役割も期待されていると感じるようになって、一人で担わないといけないのか…と思った時に、すごく辛くなってしまったんです」 みんなで考えたいと思っていたことも、いつの間にか、それは経営者である後藤さんが考えることだ、とメンバーが認識していることが明らかとなり、意識も変わっていったそうです。
組織とチームに風を【通す】。その人の人生にひたすら【向き合う】【折り合いをつける】2年間
プレーヤーとして頑張ってきたメンバーは数多くいる中で、今後の成長を踏まえると、マネジメントをすることも含め、みんなで必要なものを作り上げていくような組織にはできないものかと思うようになった後藤さん。 「当初は10人程度の小組織だったので、あれが無いなら私が作る、あの人が作る、みたいに回してきたんです。小さな組織でお互い毎日顔を見合わせていたので、みんなでやるしかなかった。ところが、スタッフ数が増えてくると、スタッフから、『あれがない、これはどうなってるの?』と、組織の不足への不満・要求が増え、私や古株のスタッフに対し求めるようになりました。例えば組織の細かな規定から、メンター制度的なこと、なんとなく誰かがやってきた役割など。大きな待遇差がないにもかかわらず、一部のスタッフに業務負担が偏ってしまいがちになり、みんなで組織を作っていくことはできないものかと考え始めました」
そんな後藤さんは、2年にわたり組織関連の取り組みを推進し続けたといいます。 「私たちの団体は、いわゆるボランティア団体ではありません。雇用と契約が存在しています。だからこそ、組織としての目的をしっかり持ち、その目的に相応しい活動と方向性を示す必要がありました」 とはいえ、上位下達で、すぐに動く組織はありません。 後藤さんがまず最初にされたのは、それぞれのチームメンバーとの対話だったといいます。聞くのが大事というのは、多くの経営者の方も語ります。 一体、後藤さんはどのような対話をされたのでしょうか。 「その人自身が、自身のキャリアや生き方をどう捉えているか? というのを私は聞いてみました。家族関係もそうだし、人生も、どういう生き方をしたいのか。そういうことを聞きました」 面談のみならず、チーム全体での対話やワークショップなども併せてつづけ、全ての想いを机の上に並べていくことを、とにかく投げ出さずに続ける日々だったと話されます。 その中で、もちろん、メンバーが組織に対してもっている期待や、評価などの制度面にも対応を加えていったそうです。後藤さんは、さらにこう続けます。 「どれだけ頑張ったら昇進や昇給ができるかなど、色々な意見が出ました。この頑張っているという状態の評価で、団体の運営はできないと感じました。頑張っているといった基準ではなく、どこまで何をやりたいか、待遇の体系を整理する時には、そういう観点で折り合いをつけていく必要もありました」 頑張っている人、頑張っていると自身が強く思っている状態を訴えることは、組織運営でしばしば直面することでもあります。そういった訴えに対して、何をどこまで、どんな風に成果を出していくか、という点までをしっかり折り合いをつけて決めていく。
相手の話をとことん聞き、腹を据えて取り組んだ2年間。会社外のランチでメンバーと話したり、メンバーの人となりを聞き、知り、考え続けたそうです。 「組織が成長していくためには、今どういうスタッフがいるのか、どんな不安を抱えているのか、何が不足しているのか、人材育成が必要な場面はどこか、今後どういう人を採用していかなきゃいけないのか。多くのことを整理する必要がありました。小さな組織ではありますが、1人1人の状況や希望を聞きながら、働き方や能力に応じた待遇やキャリアパスも整理していく。 結果、キャリアパス、組織体系図、今後の採用計画の3つを全部同時に動かし、整理した上で中期計画を作る必要性が見えてきました」 一人で対応するにはいささか重すぎる内容であり、後藤さんも難しいと判断されたそうです。しかし、内部で推進するにしても、立場上、自分の声が大きくなってしまうことを危惧されたと話されます。 「様々な状況を踏まえて、コンサルタントを入れました。私一人では到底無理だし、客観的な観点で進める必要がありました。コンサルタントが入ったことで、組織の中で『組織基盤強化』を目的としたメンバー参加型のタスクフォースを立ち上げ、組織のあらゆることを整理してきました。そのために費やした時間は200時間を超えますが、トップダウンで組織作りをするよりも、そのプロセス自体がメンバーの成長を促す機会になり、有意義だったと思います。これも投資ですね」 後藤さんは、コンサルタントを入れて組織の風を通すことを、未来への投資と捉え、自分たちが目指していく組織の方向をしっかり結ぶための組織基盤を作り上げて行かれたのです。
組織基盤作りの旅は続きますが、まずは最も負荷の高い段階を終えた状態だと後藤さんは話されます。ありがたいことに、メンバー同士で、組織の目的に応じて助け合いながら、必要なものを作り上げていくようになったと実感できることも増えたそうです。仕組みを共有して、メンバーで回せる組織ができたことで、後藤さんは一言「私は、本当に楽になりました」と笑顔をこぼされました。
今回の取材では、新たな領域に挑戦されてきた後藤さん。周囲の支えや仲間なしにはできないと知りつつ、孤軍奮闘される時期を経て、大きく組織の向きを揃えて行かれる過程をお話しくださいました。 「一人でやったら、圧倒的に速度が早くなることは多いです。しかし、より成長させていきたい、伸ばしていきたいとなった時には限界がありますね。仮に、多少、速度が遅くなったとしても仲間と一緒に作っていくほうが楽になったり、伸び代がありますから」 後藤さんの、その言葉がとても胸に響きました。成果をどのように積み上げていくのか? 自分でできることは限られている。それは、経営者、リーダーにとっても同じ。チームで戦うからこそ、思いもよらないほど遠くまで成長できる点を、見落としてはいないか? どうしても、個人の成長や成果について目が行きがちな昨今に、後藤さんから、忘れてはいけない視点をいただけたと思います。
後藤さんの挑戦は続いています。メンバーと共に、支援の輪と組織の成長がより高まっていくことを心から応援しています。
【取材協力】
一般社団法人サステイナブル・サポート
代表理事 後藤千絵
https://sus-sup.com/
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ラボラティック株式会社 広報担当
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