【CEOマガジン】「あなた」と「私」の境界線を見極める

【CEOマガジン】「あなた」と「私」の境界線を見極める

女性DJの方が、客席に近づいた際にあらぬ行為を受けたと告発した話で、 多くのコメントが寄せられています。 私は、そもそもDJという職業と彼らのパフォーマンスの素晴らしさに多大なリスペクトをしている一人でもあり、そして、同じ女性でもあります。 私自身、エンタメ業界について語ることは難しいのですが、 さまざまな境界線という視点でこの事態を捉えてみることにしました。

私たちの身近にある境界線 境界線というと、なんだか線引きがあって嫌だなと思われる方もいるかもしれません。しかし、国境という言葉もあり、他の人の土地は明確に区別しておくことで、秩序を保つ意味を持ち合わせているとも言えます。 区分したり区分けしたり、という行為自体は、全体をいくつかに区切ったり分類する行為。 ちなみに、差別というのは、ある特定の事象等に対して、非合理的な理由で、侮辱、偏見、名誉毀損といった、被人道的な対応をする行為。 このように、「区別」と「差別」には大きな言葉の境界線があります。 私たちは、ギリギリの境界線を日々、行き来している危うさがある。 と、個人的には常に思っています。 たとえば、ハラスメント。これも1つの境界線です。 「どこからどこまで」という言葉と共に表現されますよね? 「どこからどこまでがOKで、どこからがハラスメントなのか」 などと言われます。

境界線には、相互の高度な理解が必要になる 組織のハラスメント防止には、ハラスメント教育といった研修があるほど。行動がハラスメントに分類されるかどうか曖昧な点や、人によって捉え方が異なる点などが存在しているからこそ、正しい知識が必要です。 「そんなつもりはなかった。コミュニケーションとしてやった」 とは、よくある境界線を越境した側の言い分。 相手は深く傷つき、コミュニケーションとは到底許容できないわけです。

そんなつもりはなかったと言うのは、正直、あまりにも成人の言い訳としては稚拙ですね。 「そんなつもりはなかったけれど、傷つけてしまったのならごめんなさい」 と言うのもよくあるパターンです。 こちらも、とりあえず謝罪しているけれど、ことの本質を分かっていない パターンかもしれません。 もしくは、相手も煽った、相手にも非があるのではないか。 と言う揶揄が「傷つけてしまったなら」という条件節に見え隠れします (そちらが傷ついているなら、謝りますという意識)。

今回の女性DJの方について、露出の多い服装をしている点に非があるのではないかとの指摘もあるようです。 しかし、好きな服を着るのは、個人の自由です。法律に抵触しない範囲であれば、責められることはないというのが、昨今の風潮ではないでしょうか。

「あなた」と「私」の境界線は、どこにあるの? 「あなた」と「私」、いったいどこで区別をするのか?  つまり、私とあなたは違う人間。感じ方も考え方も異なる。 だから、予測される行動や結果、感じ方も異なる。 自分と他者について、境界線を自分の中で引くことも必要なのが、残念ながら現代だと私は感じています。何でも線引きすれば良いといった、杓子定規な話ではありません。ただ、境界線も必要だという意識を持って、状況を見極め、対応を選択することは求められるのではないでしょうか。

舞台と観客席と言うのも、1つの境界線なのかもしれません。 私は演者であり、あなたは観客である。 一体感は、相手との物理的な距離の近さとは比例しない。 厳しいようですが、服装や露出の如何に関わらず、そんな線引きを、物理的に持っておくことも求められるのかもしれないと思います。 今回の話で言えば、どんな服装をしていても、きっと同じことが起きるかもしれないということ。 そう捉えておく方が、再現性が高い現象に私は思います。

組織でも同じ。 上司と部下。一体感は、相手をいじることで心の距離を縮めて生まれるものではないのです。

「らしさ」は、相手の「らしさ」も同時に認めるからこそ、成立する 自分らしさーーという言葉を主張する裏には、相手が持つ「らしさ」も同時に尊重するという高度なコミュニケーションを要します。 この「らしさ」を互いに理解し合わない限り、互いの境界線を越えるということは、今の時代、己が傷つくリスクを負うということかもしれません。 リスクを分かっていて越えるなら良いのです。 しかし、自分のらしさや考え方の前提だけで境界線を越える時は、自分の想像を超えたことが起きる可能性を見越す必要も、悲しいけれど考慮しておかないといけない。 残念に思うかもしれませんが、「あなた」と「私」の境界線というのは、 そういう緊張感を伴うものもあるのです。

今回のような、つらい思いをする事態は、2度と起きて欲しくないです。それと同時に、物事の境界線をしっかり見極めることの重要性を改めて認識させられる内容でした。

(記:ラボラティック株式会社:野口麗奈)