【取材記事vol.9】「強める」「巻き込む」「掘り下げる」

【取材記事vol.9】「強める」「巻き込む」「掘り下げる」

会社のビジョン共有を強化し、組織を共に作る

今回は、新進気鋭のスタートアップ企業のCEOであるIさんのお話を伺う機会をいただきました。今も成長する企業ですが、創業当時から組織における濃い経験を積まれたそうです。今回は、特に、創業からの試行錯誤を踏まえた組織醸成についてお話しを伺いました。

ミッションを【強める】人と共に会社を成長させる

会社を起こし、創業メンバー以外は、人を集めることから始める経験をされたIさん。 「スタートアップだったので、ミッションはある。でも、サービスはまだ何もない。私たちが解決していこうとする社会課題と、そこに共感する人を とにかく全方位で集めていくわけです」 とはいえ、創業したばかりの会社で、認知も高くない状況です。この時は、必死に人を集めてチームを形成されたそうです。 「サービスをローンチして、ピッチとかで認知をしてもらえたり、資金調達をしたりっていうプロセスが入る。すると、ポツポツと人が入ってくるんです。ただ、最初は、人の定着が難しいという課題とも直面しました。弊社だと、創業3年目くらいからかな。ピッチコンテストやインキュベーションプログラムに出て行って、メディアに名前を知ってもらえるようになった。 そのフックで入ってくれた人が多かったのですが、一定数、退職してしまう人がいました」

メディアなどに企業名が出始めた効果で、同社を輝かしい企業に違いないと先入観を持ったメンバーの入社が増えていきます。 しかし、こういった先入観を持って入社したメンバーほど、会社で何か難しいことや、壁にぶつかると、すぐに辞めてしまったのだそう。 そこで、Iさんや経営陣は、そもそもの採用方針自体を見直し、改善しながら、採用のあり方を再定義されました。 「ミッションを強化してくれる人材を見極めることに、重点を置きました。そのため、採用方法を改善し、新しいアプローチを取りました」 参画メンバーの自社ミッションへの共感は、多くの企業で耳にする言葉です。 その上で、ここでミッションを「強める」ことまでも見据えてらっしゃる点は、まさに、ビジョナリーな経営者の姿ではないでしょうか。 言葉にするのは簡単ですが、実際には多くの苦い経験を経て、自社のミッションへの共感やバリューへの強いコミットこそが、会社の軸につながると実感されるご経験もあったそうです。 「もう、忙しくて猫の手も借りたい状態ですから、スキルセットや経験とかが強い人が入ってくれると、非常に助かりました。ですが、一緒に働いてみたら、フィットがないとか、ちょっとあり得ない問題が発生する経験を 踏まえての、今です」 形成期は、ひたすらミッションの強化、とお話し下さったIさん。 その結果、ミッションに響いて、しっかり会社に定着するメンバーが集まりました。すると、組織は混乱期に突入していったそうです。

混乱期の経験を重ねて行き着いた、【巻き込む】【掘り下げる】コミュニケーション

スタートアップに混乱や荒波はつきもの。混乱期は今もかもしれない、と笑いながら話されるIさん。過去の混乱期を振り返ると、社内のコミュニケーションと雰囲気の変化が、最もわかりやすく混乱期を特徴づけるのではないかと話されます。 「実際、オープンでないコミュニケーションの中で、特定の人を排除しようとするような扇動的な行動が見受けられました。非常に優秀な人材であっても、その人が上司でありながら部下を陥れようとし、若手メンバーにダイレクトメッセージを通じて『その人の指示は無視するように』といった指示が飛び交う状況が発覚しました」 このような状況は、経営陣と若手メンバーの個別の1 on 1で、若手メンバーが何か言いたそうな様子を感じ取り、事実が明るみになったそうです。その後の詳細は皆さんのご想像にお任せしますが、創業以来、初めての試練となり、代表として厳しい対応を余儀なくされました。 さて、時にはヒリヒリする経験を通じ、混乱期の組織と対峙する際の、2つの重要なポイントを挙げていただきました。 「1つ目は、会社として描くべきビジョンを明確にし、そのイメージを言葉にしてメンバーに共有する取り組みです。直近で、パーパス(目的)、ビジョン(将来像)、バリュー(価値観)を更新しました。このプロセスでは、全メンバーを巻き込んで納得感のある内容を作り上げるために、しっかりと言語化を進めました。組織やその指針が明確でないと、何が正しいのか、何が誤っているのかが分からなくなります。1つずつ、丁寧に言語化するプロセスは、非常に重要です」 一貫して、会社の軸をブラさないこと。そのために、しっかり理解できる内容を言葉として残し、全員で分かち合うプロセスが重要なのですね。 頭では分かっていても、実際に言語化しようとすると高い壁に直面することもあるでしょう。言語化を最後までやり切れるかどうかと言った点も、組織の底力が試されます。 「2つ目は、個別のコミュニケーション量を増やすことです。普遍的ですが、改めて重要かと思い、私自身が、自らコーヒーを淹れながら1 on 1を行っています。創業者や代表の考えをしっかりと伝えていくことは、非常に大切だと思って。たとえば、設定したパーパスも、メンバーが受け取って、理解しなければ意味がありません。ですから、徹底的に言語化し、全体的なコミュニケーションの頻度を上げています。さらに、重要な事柄については、全体のコミュニケーションと並行し、1 on 1で深く掘り下げています。全体と個人の両方からアプローチして、大切なことに対して触れる機会と考える場を増やし、混乱を最小限に抑えていくようにしています」

まさに、コミュニケーションの頻度、量、スタイルと様々なバリエーションを持って、メンバーを巻き込みながら言語化された内容と関わり合う。人数が増えるほど、濃度が薄くなりやすい状況を、しっかりと分解した上で対応を決めて続けていく。経営側にも、継続するためには覚悟と肝力がいる取り組みです。

何もない状態から会社を立ち上げ、急成長し続けるスタートアップ企業を率いるIさん。並大抵の精神力では乗り越えられない壁も、1つずつ対峙し、 言葉にして乗り越えるを繰り返していらっしゃいました。組織規模が大きくなり、人も増えていけば、さらなる組織の壁が見えてくるもの。 その組織の対応の手法に絶対はないのかもしれませんが、ミッション・ ビジョン・バリューやパーパスこそ、会社の幹なのだと改めて考えさせられる機会となった取材でした。

【取材協力】
現職:ソフトウェア業(スタートアップ) 代表取締役
イニシャル:I様

《この記事に関するお問い合わせ》
ラボラティック株式会社 広報担当

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